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ハナとの思い出

私の経験から、今でも気にかかる子の事をお話します。

当時、私が自分の犬を持つまでお借りしていた犬は、「ハナ」という女の子でした。

最初は、興味本位で近くまで来てくれるのですが、いざ私が手を伸ばすと、飛びのいて逃げるのです。

そして、威嚇しながら牙を剥くのです!
「殺される・・・」と、本気で思いました(笑)

結局、しばらくは身体を触らせてはもらえず、気まずい沈黙が、痛かったです。
やっと、頭を撫でさせてくれるようになったのは、3週間を過ぎてから。

それも、毎日毎日、決まった時間に通って、機嫌をお伺いして、犬舎のお世話をして、ご飯を上げて、やっとお許しが(笑)・・・嬉しかったです!

なぜなら、それまでのハナちゃんは、オモチャを持って近くに来てはくれるものの、オジサンを挟んで、私を遠巻きに観察するだけでしたから(泣)

「直接、手渡してくれるのは、いつ~?」と自信を無くしたものです(苦笑)

それでも、リラックスしている内はまだ、ボールを持ってきてくれたりして、相手をしてくれるのですが、いざ本格的に訓練を始めようとすると、それこそ襲い掛かってきそうな勢いで、私に向かってくるのです!!
すごく怖かった・・・(苦笑)

それでも、長い時間をかけて築いた絆は固く、私が手を掛けなくなってからは、急に元気が無くなり、10日以上ご飯も食べずに、私を待っていたそうです。

その子には、ちゃんと飼い主さんもいたのですが、訓練を入れたのは私なので、飼い主さんより私に心を寄せていたのだと思います。

それからは、私の犬(里緒菜)を紹介がてら、しばらくハナの所へ遊びに行き、さよならの準備のため、説得しました。

ハナの飼い主さんは、私が自分の犬を持つ前から、「ハナをあげる。」と言ってくれていたのですが、私も1から犬を育ててみたかったので、お断りしていたのです。

けれども、さすがにシェパードを2匹、養う余裕はありませんでしたので、ハナには我慢してもらっていたのですが・・・。

そのことを思うと、今でも、可愛そうなことをしたなと、胸が痛みます。
(どうしてるかな~?ハナちゃん・・・涙)

他の家の子をお借りして訓練を入れるのは、簡単なものではありません。

仔犬の頃から、しつけをして育てあげても、なかなかこちらの言う通りには動いてくれないもの。

それが一度、他の人の手によって調教された犬を壊し、自分の色に染め直すのです。

人間の方が犬に負けていては、犬を訓練するなんて、夢のまた夢、到底出来るはずもありません。

犬をこちらの思い通りに動かす、ということは、人格ならぬ犬格を壊す作業です。
まさに犬と人の真剣勝負です。

遊びのときならいざ知らず、訓練や本番になれば、犬の機嫌を窺いながら動くことは出来ません。

なので犬は、自分の気分を優先しないよう「心を殺す」術を覚えなければなりません。

それを訓練で、力づくで仕込むのですから・・・生半可な気持ちで挑むのは危険です。
ある意味、マインドコントロールですから、犬にとっては、酷なことなのかもしれません。

それでも、犬の一番の喜びは、自分が信頼するリーダーに命令され、認められ、褒めてもらえることです。

だから、精一杯の愛情を注いで、いっぱいスキンシップを取って、遊んであげること、それこそが犬にとっての最大の喜びであり、ご褒美だと私は信じています。